映画理論1 カメラワークの基礎

どうも、同人結社創作信仰鬼姫狂総本部 代表の秋元惟史(作家名義・民富田智明)です。

不定期で、映画理論のブログ講座を開始します。

映画演出には、体系化された様々な理論が使われています。
適切な理論に則した演出をすることにより、できるだけ失敗の少ない作品を生み出すことができるとされています。
視聴覚に訴える映像表現を成立させるための映画理論は、実写映画だけでなく、漫画表現にも活用できる実用的なものです。
映画理論を習得することによって、文章で書かれた脚本から絵コンテを作成し、視覚的に演出意図を伝えることができるようになります。

今回は、映画において最も重要なカメラワークの基礎を説明します。

【映画の発明】

映画は、活動写真ともいわれるように、静止画である写真を連続で切り替えることによって、あたかも写真が動いているように見えるという脳みその錯覚(仮現運動)を利用した表現技術です。

映画の発祥は、アメリカのエジソンが接眼レンズ覗き込み型のキネトスコープを発明したことが起源とされています。
後に、フランスのリュミエール兄弟がスクリーン投影型のキネマトグラフを発明したことで、今日の映画の基礎が成立したといわれています。

世界初の映画上映は「列車の到着」であり、機関車が駅に到着する様子を撮影した記録映画となっています。
映画は、日常の風景をそのまま撮影した記録映画が源流にあるのです。

初期の映画は、同一視点の長回しによる風景映像でした。
しかし、後に、複数の視点の映像を切り貼りして、連続した動作のように見せる編集という技術が発明されました。
編集の発明により、複数の視点による映像の連続に特別な意味が生じ、映像に意図的な演出が施されるようになりました。
カメラワークの始まりです。

カメラワークの発達によって、映画は単なる記録映画の域から脱しました。
そして、「月世界旅行」や「大列車強盗」など、映像の中で様々な芝居を演じる劇映画の歴史が始まったのです。

専門の大学を出ていないと、クリエイター志望でも古い映画を敬遠して見たがらない人は多いそうですが、古典を知るのは大事です。

【カメラワークの意義】

カメラワークは、カメラと被写体の距離や、角度や、高さを切り替えて撮影することによって、特定の意味を持たせることが目的となります。

初期の映画は音声のない無声映画(サイレント映画)であり、映像だけが伝達手段でした。
劇映画の誕生後、映画には、補助的に内容を伝える字幕という技術が発明されましたが、基本的には音のない映像だけで内容を伝えるしかありませんでした。

そのため、カメラの位置が切り替わるということには、必ず特定の意図があるということになるのです。

従って、映画演出のためには、カメラワークを理解する必要があります。

【カメラワークの分類と意味】

カメラワークには、距離による分類と、角度による分類と、高さによる分類があります。
これら三つのカメラワークを複合的に使い分け、映画演出がされています。

【距離による分類】

〇ロングショット

ロングショットは、最も遠くから被写体を撮影した構図で、人物よりも周囲の風景に焦点を合わせたものです。
俗に「引き」ともいわれ、どこで誰が何をしているのかという状況説明のために多用されます。
状況説明に使われやすいので、エスタブリッシングショットと呼ばれます。
映画の冒頭によくある空撮シーンや、場面転換時のビル街や空港の全景シーンがロングショットです。

〇フルショット

フルショットは、ロングショットよりは被写体に接近し、風景よりも人物に焦点を合わせたものです。
人物の全身を収めた構図で、注目させたい人物を特定します。
注目させる人数は様々ですが、主人公や悪役の登場場面で多用されます。

〇ニーショット

ニーショットは、フルショットよりも接近し、人物の膝から上を写した構図です。
やや収まりの悪さがあるからか、あまり多用されるものではありません。

〇ウエストショット

ウエストショットは、ニーショットよりも接近し、人物の腰から上を写した構図です。
人物を写す構図として安定感があり、状況説明が終わった後の会話で多用されます。
人物に焦点を合わせた会話場面で最も客観性があり、複数人の位置関係を示すキーショットとして機能します。

〇バストショット

バストショットは、ウエストショットよりも接近し、人物の胸から上を写した構図です。
会話中の特定の人物に焦点を合わせる場合に多用されます。
基本的には発話者の様子を写すものですが、会話相手の様子を挿入することにより、会話による心情変化を表現できます。

〇クローズアップ

クローズアップは、バストショットよりも接近し、最も被写体に近い構図です。
俗に「寄り」ともいわれ、顔の表情や、手足の動き、小道具の様子など、特定の事物の一点に焦点を絞り込むときに多用されます。
最も意図的な構図であり、即物性が強いアクションやホラーでは、指先が触れた拳銃や、時限爆弾の数字や、銃弾で穴が開いたドラム缶など、「次に何かが起こるぞ!」という変化の原因を示したり、「こんなすごいことになったぞ!」という吹き出る血飛沫、弾ける臓物などの変化の結果を示すことに使われることが多いです。

【角度による分類】

〇ノーマルアングル

ノーマルアングルは、水平を保った最も自然で一般的な角度です。
主張のない角度なので客観的で汎用性が高く、映画の中で多用されます。

〇ローアングル

ローアングルは、低い位置から被写体を見上げる角度です。
主張が強く、寄りで被写体の勇壮さや威圧感を出したり、引きで場の開放感や将来への期待感を出したりするのに使います。
ポジティブな意味でも、ネガティブな意味でも強い効果が出ます。

〇ハイアングル

ハイアングルは、高い位置から被写体を見下ろす角度です。
寄りで被写体の困惑や憂鬱の心理を示唆したり、子供や女性に対して庇護の感情を喚起したりします。
また、高いところから見下ろすという構図から、引きでは客観性が強く、「神の視点」や「鳥の視点」ともいわれ、場面の状況説明で多用されます。

【高さによる分類】

〇ノーマルポジション

ノーマルポジションは、目の高さにカメラを置いた最も自然で一般的な構図です。
旅行で写真を撮るとき、無意識に多用している構図となります。

〇ハイポジション

ハイポジションは、目の高さよりも高いところにカメラを置いた構図です。
被写体の人物の奥にある事物や風景に焦点を合わせるときに使います。

〇ローポジション

ローポジションは、目の高さより低いところにカメラを置いた構図です。
被写体の人物の手前にある事物や地面に焦点を合わせるときに使います。
画面に奥行き感が強調されるため、最も迫力のある映像になります。
迫りくる悪党や怪物や洪水から逃げる主人公など、アクションやホラー、パニックと相性が良く、多用されます。

 

以上が、固定撮影による基本的なカメラワークとなります。
これが、基本にして神髄です。
映像には移動撮影という技法もあるのですが、固定撮影以上に特別な意味が生じる技法なので、後回しでも構いません。
(個人映像で移動撮影ができる環境など、ほとんどないですし)
とにかく、三脚据えて首振らず、が映像撮影の原則なのです。

 

カメラワークを覚えれば、旅行での写真撮影が上手になりますし、もちろん、小型ビデオカメラを手にyoutubeなどに投稿する映像撮影もできます。
もちろん、脚本から思い通りの絵コンテを描けるようになるので、漫画を描くためにもなります。
また、脚本や小説を書く場合も、カメラワークを意識すると、より映像的に場面を想像することができるようになります。

一枚絵のイラストばかり描いていた人が漫画を描くと、絵柄がきれいなのに構図が甘かったり、同じ構図が何度も続いたり、カット割りの流れに違和感があったりするのですが、映画のカメラワークを意識していないことが要因なのかもしれません。

逆に、多少絵が下手でも、映画のカメラワークに則って構図とカット割りの流れが自然な漫画だと、不満なく読めたりします。
手塚治虫先生を筆頭に、映画マニアが描いた漫画は、構図で読ませる作品が多いです。

スティーブン・スピルバーグ監督いわく、「映画はもともと音がなかったのだから、音を消して見ても面白い映画こそが優れた映画である」と。
つまり、画面を見ただけで何が展開されているのかがわかるのが大事なのです。

考え抜かれたカメラワークが積み重なって、下のような最高にかっこいい映画が生まれます。

民富田智明の「鬼神童女遊侠伝」シリーズも、日本語が分からない国の人でも、画面を見ただけで内容が理解できる作風を心掛けています。

カメラワークは、映画や漫画を演出する上では欠かせない文法なのです。