どうも、同人結社創作信仰鬼姫狂総本部 代表の秋元惟史(作家名義・民富田智明)です。
今回から、不定期ではありますが、脚本の書き方について持論を述べようと思います。
民富田智明は、芸術系大学の映像学科に所属していた頃、映画理論と脚本を専門に学んでいました。
テレビ制作などの技術系に進まなかった理由は、映像機器や照明機器を使いこなすことよりも、物語を創造することに興味が強かったからです。
映像作品には様々なジャンルがありますが、民富田智明にとっての映像とは、お芝居を写した劇映画のことでした。
物語を書くという点においては、撮影技術よりも、映画理論や脚本を習得したほうが応用が利きます。
脚本を書けるようになれば、そのまま脚本家になるという道もありますし、練習次第で小説家の道もあります。
絵コンテを描けるようになれば、アニメ演出もできますし、漫画も描けますし、紙芝居や絵本にも対応できます。
撮影技術を習得すれば、プロの技術屋として就職はしやすいのかもしれませんが、プロの設計士になれるかどうかは別の話です。
物語性のあるすべての創作物は、脚本という設計図から生み出されています。
つまり、設計図である脚本を習得すれば、娯楽産業に生きる表現者として、幅広く活動できるようになるのです。
映画理論と脚本を学ぶことで、その気になれば何でも芝居を作れるという、本当の基礎力が養われたと思っています。
それでは、脚本の書き方に入ります。
なお、今回の講座は、超初心者向けの入り口にすぎません。
民富田智明自身、まだまだ修行中の身ですし、お話作りの勉強は一生続きます。
脚本の専門書は多く出版されていますが、それを読んだからといって成功は保証されていません。
始める前からグダグダ言っても何も身に着きませんので、まずは書いてみる、ということが重要です。
どんな大作家も、みんな無名の素人から始まっているのです。
【脚本の構成要素】
脚本は、柱、ト書き、台詞の三要素から成り立っています。
柱は、場面の開始を表す記号で、場面の場所と時間帯を指定します。
柱の頭には、必ず〇を書きます。
完成台本では番号が振られますが、場面が入れ替わることもあるので、初稿の段階では単に丸を書くのです。
場所の指定は、カメラの設置やスタジオのセットの準備に関係するものなので、できるだけ簡潔かつ具体的に書きます。
時間帯の指定は、ロケの手配やライトの設置に関係するもので、早朝、昼、夕方、夜など、大まかに指定します。
ト書きは、登場人物の動作や、舞台の情景、配置された大道具小道具を説明するための文章です。
台詞と混同しないように、必ず3マス下げて書くのが作法です。
何故「ト書き」なのかというと、諸説ありますが、日本の古典芸能である能の台本に、「(台詞)~と、~する」と書かれていたからというのが有力とされています。
ト書きは小説の地の文に相当しますが、ト書きの場合、具体的に目で見ることができる事象のみを書くので、登場人物の心理描写は書いてはいけないことになっています。
登場人物の心理描写をする場合は、目に見える具体的な動作や表情を指定することになります。
台詞は、言わずと知れた、場面内で登場人物が発言する内容を指定する文章です。
台詞を書くときは、どの人物の発言なのかを指定するために、必ずカギかっこの上に役名を書くことになっています。
なお、台詞の発話中に特定の動作や表情をする場合、台詞文の中にかっこ書きで動作や表情を指定することもできます。
柱、ト書き、台詞を踏まえて脚本の書式で場面を書いてみます。
題名「密談」 作・民富田智明
人物
悪代官(50)痩せ型
悪徳商人(45)小太り型
〇悪代官の屋敷・部屋(夜)
薄明りを灯す中で、悪代官と悪徳商人が向かい合って座り、酒食の膳を交わしている。
悪代官「して、越前屋、今宵は何用で参ったのか」
悪徳商人「お代官様、実はたってのお願いがございまして」
悪徳商人が、横に置いてあった風呂敷の包みを取り、すっと前に差し出す。
悪代官「なんだその包みは」
悪徳商人「つまらぬ菓子折りでございます」
悪代官「その方はいつもつまらぬ菓子折りばかり持ってくるではないか」
悪代官が包みを手に取り、風呂敷を解く。
悪徳商人「お代官様こそ、そのつまらぬ菓子折りをお受け取り下さるではないですか」
悪代官「フフフ、こういうつまらぬ菓子であれば、毎日でも嫌な気はせんぞ」
悪代官が菓子折りを開けると、小判が詰まっている。
悪代官「ほほう、まことにつまらぬ菓子だ。用件を聞こう」
悪徳商人「近頃町に住みついている野良犬がいまして。その野良犬が、何やらうちの裏の稼ぎについて こそこそと嗅ぎまわっているようでして、目障りなことこの上ないのでございます」
悪代官「その野良犬とはなんだ」
悪徳商人「名は知れませんが、めっぽう強い浪人でございます」
悪代官「浪人ごとき、わしの力をもってすれば、消すことなど容易い。任せておけ」
悪徳商人「何卒、宜しくお願い致します」
悪徳商人が深々と頭を下げる。
悪代官「しかし、おぬしも悪よのう」
悪徳商人「お代官様にはかないませぬ」
悪代官「まあ、うまくやっていこうではないか」
悪代官と悪徳商人の笑い声が響く。
以上が、脚本の基本的な構成要素です。
これだけです。
ちょっとした寸劇ならば、すぐに書けます。
しかし、これが多くの場面から構成される長編の脚本となると、その構成は悩みの種となります。
長編が簡単に書けたら、みんな大作家になれます。
誰も挫折しません。
脚本の書き方で大事なのは、その形式を覚えることではありません。
脚本という形式を使って、何を物語るのかが、一番難しい部分なのです。
民富田智明は、「鬼神童女遊侠伝」シリーズという世界を物語ることにすべてを捧げています。
しかし、まだまだ完成していませんし、一生完成しないかもしれません。
常に発展途上、それが創作活動というものです。
脚本の形式が分かったら、次は、何を物語るかという永遠のテーマに突入します。